「眠れないの」
夜10時過ぎ、寝室から娘の声がした。
私は、仕事部屋で仕事をしていた。
妻は…
寝ていた。
実は、娘は幼稚園から帰ってくると、疲れ果て爆睡してしまったのだ。
普段は、夕方寝てしまうことはない。
いつもと違うことをしてしまったので、眠れなくなってしまったのだろう。
ふいに私も、幼い日、夜眠れなくて不安な気持ちになったことを思い出した。
一人だけ起きている心細さは、時間が経つ度に増してくる。
一体あの時、どうやってその状況から脱したのか覚えていない。
誰かを起こしたようにも思うし、自然と寝てしまったかもしれない。
本当に、遠い日の記憶だ。
ただ、一つだけ言えるのは、どう乗り切ったかということは忘れてしまっても、
あの時の切なさは、いつまでも覚えているということだ。
娘もきっと、同じような気持ちでいるのかもしれない。
だが、私と娘が違うのは、こんな状況でもトコトン楽しむということ。
楽しい話をして、とせがまれ、桃太郎の後日談で犬と猿とキジが鬼の財宝を横取りしようと企む、
みたいな話をしたら、キャッキャキャッキャと笑い、
キャンプごっこと称して、布団で釣り合戦をし、
ようやくさっき眠った。
仕事はあまり出来なかったが、
まぁ、こんな日があってもいいか。