伊坂幸太郎の代表作。
レイプ犯に襲われた母から産まれた弟。
兄を語り部に、物語を紡いでいった。
この重苦しいテーマに対して、軽妙な語り口。
ただし、テーマを決して軽く扱ってはいない。
むしろ、真摯に向き合い、悩み苦しみながら書いている事が読者にも伝わってくる。
力作である。
ただ、共感はできない。
この作者のものは三作読んでいるが、大概同じような読後感だ。
途中まではひっぱられ、たのしく、また、考えさせられながら読むのだが、
結論が…う~ん。
良い悪いではなく、違うのだ。
つまり、罪に対する考え方。
これまで、多くの作家がこのテーマに対して取り組んできた。
ふと浮かんだのはアガサクリスティの「オリエント急行殺人事件」。
原作では、ポアロは結論に行くまでに苦悩していない。
しかし、ドラマ版ではポアロの苦悩が色濃く描かれている。
私はドラマ版の方が好きだ。
軽妙でもいいのだが、弟・春の苦悩をもっと描くべきではなかったか。
文庫版を読んだのだが、文庫版で高校時代の春のエピソードが追加されたと解説に書いてあった。
正解だと思う。あのエピソードはかなり生きている。
しかし、足しても足りないと思う。
今の結論にするならば、ブラピ主演の「セブン」まで追い込まないとダメじゃないか、と思う。
しかも、それを軽妙な語り口で…。
至難の業だが、きっと伊坂幸太郎ならば出来るだろう。
たぶん、今はまだ、その過程なのかも知れない。