「アンチヒーロー」にみた日本的倫理観

※一部ネタバレを含みます。

 

TBSで放送されていたテレビドラマ「アンチヒーロー」が最終回を迎えた。

気になったことを現役テレビディレクターの視点でお話ししたいと思う。

 

まず、「アンチヒーロー」のタイトルの由来は、主人公の弁護士・明墨がある目的のために、殺人犯を無罪にしてしまう、というところからきている。

 

冒頭の明墨のセリフは「殺人犯になると、人生が終わりだ」ということを訥々と被疑者に問うシーンから始まる。

 

一見センセーショナルなシーンだが、実は、殺人を犯したのに罪に問われず見過ごすという作品は山ほどある。

ネタバレになるので、作品名は言及しないが、アガサクリスティにも再三みられるし、日本だと伊坂幸太郎はその傾向にある。その他、アメリカのミステリードラマでもかなり頻発している。

 

「復讐は美しい正義」という考えは、人間の潜在意識にあるのだろう。

正義のために罪を見逃す…は、ある一定数の視聴者にはウケる。

 

ただ、この考え方はテレビドラマではご法度だ。

どんなに極悪非道の殺人鬼でも、私刑は許されない。

法治国家においては、法で裁かれるのが正義という価値観が日本には根深い。

 

だからというわけではないかもしれないが、アンチヒーローでも最後に修正をかけてきた。

殺人犯は法廷で自白し、罪を償うことになる。

 

個人的な見解だが、これでドラマとしては「正しい」のだが、その代償として途端に魅力を失ったと思う。

 

このドラマの面白いところは、明墨が法すれすれ、あるいは、法に触れてまで、目的を達しようとするところにある。

 

その目的が、死刑囚の無実を晴らすことだったのだが、ちょっときれいすぎるという印象を受けたのは、私だけだろうか。アンチヒーローだからこそ、常識的な捉え方をせず、問題に切り込めていけたと思ったのだが、最後は「アンチ」ではなくなってきていた。

 

ただ、地上波のテレビドラマで放映するならば、この辺りが倫理的臨界点だったのかもしれない。

 

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長文、最後までお読みいただきありがとうございました。

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